優れた専門家ほど多くの失敗を経験している
人は失敗の影を見るたび
足を止めてしまうものである
みっともないと胸の奥で
小さく身をすくめる夜がある
けれど転ばぬ道ばかりでは
手のひらは何も覚えられない
うまくゆかぬその痛みこそ
技と勘を深く育ててゆく
専門家とは傷の数だけ
確かな言葉を持てる人である
この言葉が示しているのは、専門家とは最初からうまくできる人ではない、ということである。
何度も試し、うまくいかず、そこでやめずに考え直し、また試した人だけが、本当に役に立つ知恵を身につけていく。表面の知識だけでは、実際の場では足りない。
思い通りにいかなかった経験があるからこそ、どこでつまずきやすいか、どうすれば立て直せるかがわかるようになる。
だから失敗の多さは、未熟さの印ではない。むしろ、その分野に正面から向き合ってきた時間の跡である。
失敗を避け続けた人は、きれいに見えても中身が浅くなりやすい。多くの失敗をくぐってきた人こそ、言葉にも判断にも深みが出る。
専門家とは、失敗のない人ではなく、失敗を経験に変えてきた人なのである。
失敗の数が経営の厚みをつくる
失敗を避けることばかり考え始めると、経営の動きは目に見えないところから鈍くなる。発信が無難になり、提案は小さくまとまり、新しい打ち手にも手を出しにくくなる。
すると売上だけでなく、場の空気まで細くなる。お客さまへの言葉も弱くなり、判断にも迷いが増える。経営者が失敗を怖がるほど、会社全体が「減点されないこと」を優先しやすくなるからである。
けれど商いは、本来そういうものではない。専門家とは失敗を通して現場の解像度を上げてきた人のことである。だから、うまくいかなかった経験は、能力の欠陥ではなく、次の精度を上げる材料になる。
氣の経営で見るなら、失敗を恐れすぎる状態は、攻めるべき時に足が止まり、見直すべき時にも本音が見えにくくなる状態である。天の流れを読み、地の器を整え、人の姿勢を戻すには、結果だけでなく途中のズレを受け止める必要がある。
ところが失敗を恥と結びつけると、失敗そのものより「失敗した自分を見たくない気持ち」が前に出る。その瞬間、学びは止まりやすい。数字の問題より先に、心の向きが硬くなるのである。
優れた専門家ほど多くの失敗を経験しているのは、才能が特別だからではない。小さく試し、外し、直し、また試す。この往復を面倒がらず続けてきたからである。
経営でも同じで、発信、商品、値付け、人間関係、どれも一度で決まり切ることは少ない。むしろ、失敗は挑戦した証拠であり、流れを読み替えるための実地の記録である。ここを受け入れた人から、判断が静かに強くなる。
だから必要なのは、失敗しないことではない。失敗しても崩れない見方を持つことだ。ひとつの不調を、自分全体の否定に広げない。うまくいかなかった点だけを拾い、次にどう変えるかを決める。これだけで経営の景色はかなり変わる。
氣の巡りは完璧さより修正力に表れる。転ばない人が強いのではない。転んだあとに位置を戻せる人が、長く続く。
経営者に必要なのは、きれいな無敗記録ではなく、試して育てた判断である。今日やることは難しくない。最近うまくいかなかったことを一つだけ書き出し、失敗ではなく材料として見直すことだ。それが、専門家への歩幅になる。
【失敗を資産に変える10分間】
今日の仕事の中で、うまくいかなかったことを一つだけ書き出し、何が悪かったかではなく、次に一つ何を変えるかまで決める。10分で終える。失敗を反省で止めず、判断の材料に変えることが経営の厚みになる。
失敗のない人が強いのではない。失敗を引き受け、学びに変え、次の判断へつないできた人が強いのである。専門家とは、うまくやる人ではなく、何度も試した人のことである。
【運を開く言葉】
書:瑞雪 文:游雲
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内田游雲(うちだ ゆううん)
ビジネスコンサルタント、経営思想家、占術家。静岡県静岡市に生まれる。中小企業経営者に向けてのコンサルティングやコーチングを専門に行っている。30年以上の会社経営と占術研究による経験に裏打ちされた実践的指導には定評がある。本サイトの「運の研究-洩天機-」は、氣と運をテーマにしている。座右の銘は 、「木鶏」「千思万考」。
瑞雪(ずいせつ)
書家。新潟県村上市に生まれる。幼い頃より書に親しみ、18歳で書家を志し、大東文化大学文学部中国文学科で青山杉雨氏に師事。卒業後 ㈱ブリヂストンに就職するも6年後に退職し、独自の創作活動を開始する。人生の法則を力強く書いたその書は、多くの人に生きる力と幸運をもたらすと評判である。雅号の瑞雪は、吉兆をもたらす雪を意味している。




















