黒字なのにお金がない会社|利益と現金がずれる資金繰りの原因

お金と循環
売上はある。決算も黒字。それなのに、月末になると通帳の残高が気になる。もっと売れば楽になると思って働いているのに、現金は思うほど残らない。黒字なのにお金がない会社では、売上や利益だけを見ても資金繰りの苦しさは見えてこない。会社のお金が、いつ入り、どこへ出ているのか。その間に何が起きているのかを見る必要がある。

黒字なのにお金がない会社では、利益と現金の動きがずれ、売掛金や在庫、借入返済、固定費によって手元資金が減っていく。資金繰りは売上や利益だけでなく、現金がいつ入り、どこへ出て、使ったお金が会社と経営者に何を残しているかまで見る必要がある。

黒字なのに現金が残らない理由

決算は黒字でも、入金より先に支払いが重なれば通帳の残高は減る。利益だけを見ていても、会社の現金は見えてこない。

売上も利益も出ているのに、月末の通帳残高を見ると安心できない。黒字ならお金も残るはずだと思うほど、この矛盾は分かりにくくなる。利益と現金は同じものではなく、その間には入金と支払いの時間差がある。資金繰りの苦しさは、売上の少なさだけでは説明できない。

仕事はある。売上も前年より落ちていない。決算書を見れば利益も出ている。それなのに、月末が近づくと通帳の残高が気になる。仕入れ、外注費、家賃、返済、税金。予定されていた支払いが終わるたび、黒字という言葉と手元の現金がどうも噛み合わない。
こういう状態になると、「もっと売上を増やさなければ」と考えやすい。売上が増えれば利益も増え、資金繰りも楽になる。筋の通った考え方に見える。だが、ここには一つ抜けているものがある。利益と手元資金は同じではないという現実だ。
たとえば、今月100万円の仕事を終えて売上を計上しても、代金の入金が翌月や翌々月なら、その100万円はまだ通帳には入っていない。日本政策金融公庫も、商品やサービスを提供した時点で売上が計上されても、実際の入金が後になることで、利益と現金にズレが生じると説明している。
ところが、会社の支払いは入金を待ってくれない。外注先への支払い、給与、家賃、仕入代金などは、それぞれ決められた日に出ていく。売上は立っている。利益も出ている。それでも、まだ受け取っていないお金を支払いに使うことはできない。黒字でも、支払日に使える現金が足りないという状態は、ここから生まれる。
資金繰りを見る時に厄介なのは、金額だけを見ていると、この時間差が見えにくいことである。「今月はいくら売れたか」「いくら利益が出たか」は分かりやすい。一方で、「その売上はいつ現金になるのか」「その前に何の支払いが来るのか」は、別に見なければ分からない。
経営者にとって売上や利益は重要である。そこを軽く見る必要はない。ただ、利益が出た日と現金が入る日は別に動く。この違いを見落とすと、数字の上では順調なのに、通帳だけが減っていく理由が分からなくなる。
しかも、売上を増やせば必ずこの問題が小さくなるとも限らない。受注が増えれば、その仕事をこなすための仕入れや外注が先に必要になる事業もある。日本政策金融公庫も、売上が急増する時期には売掛金が積み上がり、手元資金が不足しやすくなると説明している。 売上と現金は同じ速度では増えない
黒字なのにお金がない会社で最初に確かめるべきなのは、経営者の頑張り方ではない。売上、利益、入金、支払いを一つの数字として見ていなかったかである。黒字という結果だけを見ている限り、現金が減る理由は見えにくい。

黒字の決算書と減る通帳残高を見比べ現金が残らない違和感を表すイメージ

入金と支払いに時間差があると分かると、「黒字なのにお金がない」という状態は少し違って見えてくる。問題は、単純に稼ぐ力が足りないことではない。十分な売上があっても、現金になる前に支払いが来れば、通帳残高は減っていく。問題は売上の多寡だけではない。
たとえば、月末に300万円の入金が予定されていたとしても、その一週間前に仕入れや外注費、給与などで200万円を支払う必要があるなら、その時点で200万円を用意しなければならない。月末になれば300万円が入るという話は、目の前の支払日を消してはくれない。資金繰りでは、最終的にいくら入るかだけでなく、その途中で現金が不足する時期がないかを見る必要がある。資金繰りは時間の問題でもある。
ここで「それなら、もっと売上を増やせばいい」と考えると、話はさらに複雑になる。売上が増えれば現金も増える事業はもちろんある。しかし、商品を先に仕入れる仕事、外注費を先に払う仕事、受注量に応じて在庫を増やす仕事では、売上が現金になる前に必要な資金も増える。日本政策金融公庫も、一般に売上が増加すると売上債権や棚卸資産が増え、それに伴って必要運転資金が増加し得ることを説明している。
忙しくなった。請求額も増えた。利益も伸びている。それなのに以前より資金繰りが気になる。そんな、一見すると矛盾した状態は起こり得る。売上が増えるほど先に現金が要る事業では、成長そのものが一時的に資金需要を大きくするからだ。中小企業庁の事例にも、取引拡大に伴って売掛債権が増え、資金繰りへの対応が必要になった企業が示されている。
だから、黒字なのにお金が残らない時に、「売上が足りない」「もっと働かなければ」とだけ考えると、原因を取り違える可能性がある。売上を増やす努力そのものが問題なのではない。売上と現金を同じものとして扱うと、増えた仕事の陰で何が起きているのかが見えなくなる。
利益は会社の状態を見る重要な数字である。ただし、利益だけでは、今月いくら支払えるのか、来月まで現金が持つのかまでは分からない。売掛金としてまだ入っていないのか。在庫や設備へ姿を変えているのか。返済や継続的な支払いへ出ているのか。利益の額だけでは見えない動きがある。
黒字という結果と、通帳に残る現金の間には何があるのか。そこを分けて見なければ、売上を増やしても同じ不安が続く理由は分からない。

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利益と現金がずれる本当の理由

売上が立つ日と現金が入る日は同じではない。売掛金、在庫、返済、固定費が重なると、黒字のまま手元資金は細っていく。

会社には売掛金も在庫もあり、事業としての価値は存在している。それでも、今すぐ支払いに使える現金が少ないことはある。利益と現金の差は、入金前の売上、在庫や設備、借入返済、固定費がそれぞれ別の時期に動くことで生まれる。その重なりを見ると、黒字と通帳残高がずれる理由が見えてくる。

売上が計上されているのに現金が少ない。その理由として、まず見ておきたいのが売掛金である。商品を納めたり、仕事を終えたりした時点で売上が立っても、代金がその日に入るとは限らない。翌月末、翌々月末という条件なら、その間、売上は数字として存在していても、支払いに使える現金にはなっていない。日本政策金融公庫も、売上と入金の時期がずれる売掛金を、利益と現金が一致しない代表的な要因として挙げている。
ここには、黒字の会社ほど見落としやすい現実がある。請求書を出した。売上も立った。利益も見えている。すると、すでにそのお金を持っているような感覚になりやすい。しかし、売掛金はまだ使える現金ではない。入金されるまでは、給与にも家賃にも仕入代金にも使えない。
たとえば、月末時点で500万円の売掛金があっても、通帳に100万円しかなければ、今使えるのは100万円である。その翌月に500万円が入る予定でも、それまでに200万円の支払いが来れば、会社には別の資金が必要になる。資金繰りでは、将来入る金額と現在持っている金額を混ぜて考えることはできない。
もう一つ、現金が見えにくくなる場所が在庫である。商品を仕入れれば現金は出ていくが、その商品が売れるまでは現金にはならない。中小企業庁も、在庫を「お金が材料・商品という形になったもの」と説明し、在庫量が運転資金に関係することを示している。
つまり、倉庫に商品が積まれている会社では、会社のお金が消えたのではなく、現金が在庫という別の形へ移っている。会計上は資産が残っていても、月末の支払いへそのまま回すことはできない。売れなければ現金に変わらず、売れても入金が後なら、さらに時間がかかる。
ここで、利益と現金の違いがもう少し具体的になる。会社には売掛金がある。在庫もある。設備もある。事業としての価値は存在している。それでも、通帳残高が少なければ、今すぐ使える資金は少ない。会社に価値があることと、現金があることは別である。
黒字なのにお金がない状態を、単に「使いすぎた」と見るだけでは、この部分を見落とす。売上がまだ現金になっていない場合もあれば、すでに出ていった現金が商品や設備へ形を変えている場合もある。どちらも、利益だけを見ていては分かりにくい。
だから資金繰りでは、「いくら儲かったか」だけでは足りない。会社のお金が今どの形にあるのかまで見なければ、通帳残高が減った理由は見えてこない。

売掛金や在庫へ移る会社のお金を追い利益と通帳残高のズレに戸惑うイメージ

利益と現金の差は、売掛金や在庫だけから生まれるわけではない。借入金の返済も、通帳の残高を見えにくくする大きな要因になる。
銀行から借りたお金を返す時、返済額のすべてがその期の費用になるわけではない。利息は費用になるが、借入金の元金返済は損益上の費用にはならない。一方、返済する現金は実際に会社から出ていく。日本政策金融公庫も、元金返済は利益に反映されないため、利益が出ていても返済負担によって手元資金が減ることを説明している。
この違いは、黒字なのに現金が残らない会社を見るうえで重要である。たとえば、事業では利益が出ている。帳簿を見れば経営も悪くない。それでも毎月の返済額が大きければ、利益として見えている数字ほど現金は増えない。経営者からすれば、「これだけ利益を出したのに、なぜ通帳には残らないのか」という感覚になる。
借金があること自体を問題にする話ではない。設備投資や事業拡大、運転資金など、借入が会社を支える場面はある。見る必要があるのは、利益と返済は別の動きをするという事実である。黒字という数字だけでは、その後いくら現金が会社から出るのかまでは分からない。
そこへ毎月の固定的な支払いが加わる。
家賃、人件費、顧問料、外注費、各種サービスの利用料。会社によって中身は違うが、一度抱えた継続的な支出は、売上が多い月にも少ない月にも発生する。中小企業庁も、売上高が減少した際の企業の耐性を見るうえで、固定費を含むコスト構造が重要になることを示している。
一つ一つを見ると、それぞれに契約した理由がある。必要な人を雇った。仕事を任せるために外注した。業務を便利にするためにサービスを導入した。当時は合理的だった支出でも、それが積み重なれば、毎月出ていく現金の土台は大きくなる。
売上が順調な時には、この負担は目立ちにくい。入金が少し遅れた時や、一時的に売上が落ちた時になって初めて、毎月決まって出ていく金額の大きさが見えてくる。資金繰りが苦しくなる背景について、中小企業庁も売上減少だけでなく、財務・会計管理など複数の要因を見る必要性を示している。
ここまでを見ると、黒字と通帳残高の差は一つの原因では説明できない。まだ入っていない売掛金がある。現金は在庫や設備へ変わっている。借入元金の返済がある。そして継続的な支払いも続いている。
それぞれは別の出来事に見えるが、通帳から見ればすべて同じである。今使える現金の量を変えていく。
だから、黒字なのにお金がない状態を「稼ぎが足りない」の一言で片づけると、肝心なものを見失う。見るべきなのは、利益の大小だけではなく、現金がどこへ移っているのかである。
そして、その中には取引条件や返済のように以前から決まっているものだけでなく、経営者が日々「会社のために必要だ」と判断して使っているお金も含まれている。
【卦象ミニコラム】
現金はどこへ散ったのか
卦象:風水渙|散った先を見る
変化|利益が複数の場所へ分かれて見える
風水渙の「渙」は、まとまっていたものが分かれていく局面を示す。 利益が出ているのに現金が少ない時も、数字だけを見れば矛盾に見える。だが現金は、売掛金、在庫、設備、返済、固定費など別々の場所へ移っている。黒字という一つの数字で見るより、現金が今どこにあるかを分けて見ると、資金繰りの姿が少しはっきりする。

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投資のつもりで消える会社のお金

広告も学びも外注も、「事業のため」に払っただけでは投資にならない。その支出があとに何を残したかで意味は変わる。

広告も学びも外注も、会社を良くするために使うお金である。だからこそ、支出そのものを疑いにくい。けれど、事業のために払ったという理由だけでは、そのお金が価値へ変わったかは分からない。現金が出たあとに、顧客、利益、知識、時間など何が残ったのかで、支出の意味は大きく変わる。

会社のお金が減る理由には、売掛金や在庫、返済のように構造から生まれるものもあれば、経営者自身が「事業に必要だ」と判断して使っているものもある。広告、講座、コンサルティング、業務ツール。どれも遊びに使ったお金ではない。むしろ会社を良くするために払っている。それだけに、支出の意味を疑いにくい。
広告費は分かりやすい例である。新しい顧客を増やすために広告を出す。事業のための支出だから、経費として必要だと考える。ところが、何年も同じ広告を続けているうちに、その広告からどれだけ仕事が生まれているのかが分からなくなることがある。毎月の支払いだけは続いている。広告そのものが悪いわけではない。問題になるのは、「事業のため」という理由だけが残ることである。
支出したお金が、その後に顧客や利益、信用などへ変わっているなら、そのお金には先へ残る意味がある。反対に、払うことが習慣になり、何を生んでいるのかが分からなくなれば、現金は確実に減る。支出の目的と、実際に残ったものは別に見る必要がある。
自己投資も同じである。
本を読む。講座へ参加する。新しい知識を学ぶ。専門家から助言を受ける。経営者が学び続けることには意味がある。参考材料にも、自己投資を強く勧める考え方があった。その核心には、お金をその場で消してしまうのではなく、その後に価値を生むものへ使おうという発想がある。この部分は残してよい。
ただし、学んだ時点で会社の価値が増えたとは限らない。マーケティングを学んでも商品や売り方が以前と同じなら、売上への影響はまだ生まれていない。経営について何冊読んでも、判断の仕方や仕事の組み立てが変わらなければ、知識は頭の中に置かれたままである。学びは、使われて初めて事業の価値へ変わる。
ここを曖昧にすると、「投資だから」という言葉が支出を正当化し始める。高額な講座だから価値がある。専門家へ払ったのだから会社は良くなる。新しいツールを入れたから生産性が上がる。そう期待する気持ちは自然だが、支払った金額そのものが成果を生むわけではない。
むしろ資金に余裕が少ない時ほど、この違いは大きい。10万円、30万円、50万円という支出が、後に何かを生むのか。それとも「会社のために使った」という納得だけを残すのか。金額の大小より、そのお金が何へ変わったのかを見る必要がある。
経営者は浪費だけで会社のお金を減らすわけではない。真面目に会社を良くしようとして選んだ支出でも、結果との関係が見えなくなれば現金は減っていく。広告も学びも、名前だけでは投資にならない。
投資かどうかは、払った時ではなく、あとに何が残ったかで見えてくる。

広告や学びへの支出を振り返り投資したお金の行方に疑問を抱く経営者のイメージ

外注も、会社のために使うお金としては分かりやすい。経営者が抱えている仕事を誰かへ任せれば、その分だけ時間が空き、より重要な仕事へ集中できる。そう考えて外注を始める会社は多い。
ところが、実際には外注先との打ち合わせが増え、確認や修正に時間を取られ、最後は自分で仕上げていることもある。費用は毎月出ているのに、自分の仕事量はほとんど減っていない。場合によっては、外注する前より連絡や管理の仕事が増えている。
ここで残っているのは、成果物だけではない。経営者の時間も見る必要がある。外注によって同じ売上を短い時間でつくれるようになった。自分にしかできない仕事へ時間を使えるようになった。休日に仕事を見る時間が減った。そうした変化があれば、支払ったお金は経営者の時間という価値にも変わっている
反対に、費用を払っているのに仕事量も拘束時間も変わらなければ、現金だけでなく時間まで使っていることになる。会社のために外注したはずなのに、会社にも自分にも余裕が残らない。これは支出額だけを見ていては分からない。
さらに厄介なのが、長く続けている契約である。
契約した当時には、必要だった理由がある。新しい事業を始めた時に入れたシステム。忙しかった時期に頼んだ外注。売上が伸びていた頃に契約した顧問サービス。導入した時には役に立っていても、会社の仕事や顧客、商品が変われば、その価値も同じとは限らない。
それでも毎月の支払いは続く。理由は単純で、「前から払っているから」である。一つ一つは大きな金額ではなくても、こうした契約が何年も積み重なると、過去の判断が今の固定費として残る
ここには、大きな浪費より見つけにくい問題がある。派手な買い物をしているわけではない。贅沢をしているつもりもない。むしろ、どれも仕事に必要だったものばかりである。それでも、現在ほとんど価値を生んでいない支出が残っていれば、現金は毎月確実に出ていく。
だから「節約しているのにお金が残らない」という状態も起こる。問題は、使った金額が大きいか小さいかだけではない。昔の必要性と、今の必要性は同じではない。
広告も、学びも、外注も、長く続く契約も、それ自体を悪い支出と決めることはできない。大きな利益を生むものもあれば、経営者の時間を生むものもある。信用や知識として後へ残るものもある。
見るべきなのは、「何に払ったか」だけではない。その支出が今、何を生み続けているのかである。
会社のお金は、通帳から出た瞬間に終わるわけではない。その後、利益、顧客、知識、仕組み、時間などへ姿を変えるものもある。一方で、何も生まないまま毎月出ていくお金もある。この違いが見えなければ、投資と消費という名前だけを付けても、資金繰りの実態は見えてこない。

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稼いだお金を何として残すのか

会社へ再投資し続けることだけがお金の生かし方ではない。これから何を会社と自分に残すのかで、支出の意味は変わる。

支出を減らせば現金は残りやすい。だが、必要な費用まで削れば、商品や仕事の質、経営者の時間へ別の負担が移る。一方、投資だからと現金を使い切れば、選べる仕事や判断の幅が狭くなる。会社のお金は、使ったか残したかではなく、会社と経営者に何を残したかまで見て考える必要がある。

ここまで見てくると、「消費を減らして、投資へお金を回せばよい」という結論にしたくなる。確かに、何も残さない支出を減らせば現金は残りやすくなる。しかし、会社のお金は投資か消費かという二つの箱だけでは判断できない。
たとえば、顧客へ提供する商品の品質を保つ費用、事故やトラブルを防ぐための費用、経営者の仕事を減らすための外注費まで削れば、通帳の残高は一時的に増えても、別の場所へ負担が移る。経営では収益だけでなく財務基盤やコスト構造も合わせて見る必要があり、中小企業庁も企業の財務状態には大きな多様性があることを示している。 お金が出ていくこと自体が問題なのではない。
反対に、「投資だから使ってよい」と考えるのも危うい。
新しい設備が必要になる。広告を増やしたい。勉強にもお金を使いたい。将来の売上を考えれば、どれも意味のある支出になり得る。だが、将来価値を生む可能性があることと、今その金額を使えることは別の話である。
100万円の投資によって将来300万円の利益が期待できたとしても、その100万円を出したことで来月の支払いが苦しくなるなら、期待する利益だけでは判断できない。投資の善し悪しとは別に、今使える現金をどこまで残すかという問題がある。日本政策金融公庫も、事業では設備資金とは別に運転資金が必要になることを前提として資金計画を扱っている。
これは、自己投資でも同じである。高い講座だから将来役に立つ。専門家に頼めば売上が伸びる。新しいシステムを導入すれば仕事が効率化する。どれも可能性はある。しかし、まだ生まれていない成果を、すでに手元にある現金と同じようには扱えない。
参考材料にあった「多少無理をしてでも自己投資へお金を使う」という考え方も、ここではそのまま採用できない。会社には、投資の機会をつかむことと同じくらい、支払いを続けられる状態を保つ必要があるからだ。将来への投資にも、現在の資金という条件がある。
一方で、現金を残すことだけを優先し、必要な支出をすべて止めればよいわけでもない。何も使わなければ、商品も変わらない。必要な設備更新を先送りすれば、別の負担が生まれることもある。外注をやめた結果、経営者自身の仕事時間が増えるなら、現金とは別のものを使うことになる。
ここで見るべきなのは、「使ったか、使わなかったか」という二択ではない。支出したあとに何が残るのか。そして、その価値を得るために、現在の現金をどこまで使うのか。この二つを分けて考える必要がある。
投資という名前は、手元資金を守ってはくれない。将来へ残したいものがあるからこそ、今の会社が持っている現金まで含めて、その支出を見る必要がある。

稼いだお金の行方を見つめ会社と人生に何が残ったかを考える経営者のイメージ

手元に現金が残る意味は、支払いに困らなくなることだけではない。会社に余裕がなければ、経営者の判断そのものが売上に縛られやすくなる。
利益が薄いと分かっている仕事でも、来月の入金が必要なら断りにくい。手間のかかる顧客でも、売上が減ることを考えると関係を切りにくい。休日まで仕事を入れたくなくても、固定費や返済を考えれば受けてしまう。ひとつひとつは合理的な判断でも、それが長く続けば、会社を維持するために経営者自身の時間や気力を差し出す形になっていく。
この時、現金は単なる数字ではない。手元資金は選択できる余地でもある。
ある程度の現金が残っていれば、すぐに売上にならないからという理由だけで仕事を引き受ける必要性は下がる。価格や条件が合わない案件を見送る余地も生まれる。売上を一時的に増やす仕事と、長く会社へ価値を残す仕事を同じように扱わずに済む。
ここで、「現金さえ多ければ自由になれる」という話にする必要はない。必要な金額は事業によって違い、抱えている固定費や借入、取引条件も違う。それでも、現金が少ないほど判断の幅は狭くなりやすいという関係は見ておく必要がある。
長く事業を続けていると、利益が出れば会社へ再投資することが当然になりやすい。広告へ使う。設備へ使う。人を増やす。新しい事業へ使う。それによって会社が育つ時期もある。
ただ、人生後半まで同じ前提を持ち続ける必要があるとは限らない。
これからも会社を大きくしたいのか。今の規模を維持したいのか。仕事を少し減らしながら利益を残したいのか。会社から生まれた価値を、自分の生活や将来へ移したいのか。答えによって、お金の使い方も変わる。
若い頃には、会社へ戻したお金が次の成長につながることに大きな意味があった。だが、何十年も経営を続けたあとまで、利益のほとんどを会社へ入れ続け、自分には時間も金融資産も残っていないとすれば、別の問題が見えてくる。会社に残すことと、人生に残すことは同じではない。
仕事から生まれたお金は、現金として残るだけではない。長く付き合える顧客、積み上げた信用、自分でなくても回る仕組み、商品、知識、文章、経験として残ることもある。外注によって生まれた時間もそうである。逆に、毎年かなりの金額を使っていても、契約が終われば何も残らない支出もある。
売上の大きさだけを見ていると、この差は見えにくい。
黒字なのにお金がないという問題から始めても、最後に問われるのは、単に通帳にいくら残ったかだけではない。稼いだお金が何へ変わり、その結果として会社と経営者に何が残ったのかである。
稼いだ額より、あとに残ったものを見る。そう考えると、資金繰りは月末を乗り切るためだけの話ではなくなる。
この一年、会社から出ていったお金は、今どこにあるのか。現金として残っているのか。利益を生む仕事になったのか。信用や知識、仕組み、時間へ変わったのか。それとも、支払った時点で役割を終えたのか。
黒字という数字の先にある、その違いまで見えて初めて、会社のお金の使われ方が見えてくる。

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読者からのよくある質問とその答え

Q.黒字なのになぜ会社にお金が残らないのでしょうか?
A.黒字でも、売上代金がまだ入金されていなかったり、現金が在庫や設備へ移っていたり、借入元金の返済や固定的な支払いが続けば、通帳残高は増えない。利益と現金は同じ時期に動かないため、黒字でも資金繰りが苦しくなる。

Q.売上が増えているのに資金繰りが苦しくなるのはなぜですか?
A.売上が増えると、仕事によっては入金より先に仕入れや外注費が必要になり、売掛金や在庫も増える。受注が増えた分だけ先に出る現金が大きくなれば、利益が伸びていても手元資金は減る。成長と資金余力は同じ速度では増えない。

Q.利益とキャッシュフローは何が違うのでしょうか?
A.利益は一定期間の経営成績を表す数字で、現金はその時点で実際に使える資金である。売掛金、在庫、設備、借入返済などがあると両者は一致しない。利益が出ているかと、支払いに使える現金が十分かは分けて考える必要がある。

Q.会社のお金の使い方は何を基準に考えればよいのでしょうか?
A.支出の名前ではなく、お金が後に何を残しているかを見る必要がある。広告や学び、外注も、顧客、利益、知識、仕組み、時間へ変わっているかで意味は違う。同時に、将来の価値だけでなく、手元資金がどれだけ残るかも判断に関わる。

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1.黒字でも現金が少ない状態
売上や利益が出ていても、通帳残高が増えているとは限らない。売掛金や在庫、返済、固定的な支払いまで含めると、数字の上の黒字と今使える現金には差が生まれる。
2.「必要な支出」に隠れるもの
広告、学び、外注、継続契約は、どれも会社のために始めた支出である。ただ、その理由が残っていても、今も同じ価値を生んでいるとは限らない。支払ったお金が何へ変わったのかによって、意味は変わる。
3.利益と残るものは分けて考える
利益が出たかどうかと、会社や経営者に何が残ったかは同じではない。現金、信用、知識、仕組み、時間など、支出のあとに残るものは一つではない。稼いだ額だけでなく、何として残っているのかが判断を左右する。

『黒字でも会社にお金が残らないのは、稼ぐ力だけの問題ではない。使ったお金が現金や信用、仕組み、時間へ変わらなければ、利益の大きさほど経営者の選択肢は増えていかない。』

(内田 游雲)

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